それからの二人
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―――ああ、平和だな ふと凛は思う。そう、あの日々に比べるとあまりに平和。 昼休み。衛宮士郎と遠坂凛の二人は、屋上に上がって昼食を取っている。 あの戦争から二ヶ月経ち、季節はもう春。空は青く晴れ、吹く風とその日差しは季節が示す通りに暖かい。 その陽気に誘われて、屋上で昼食することにしたのだ。 下の世界を見てみる。校舎内に植えられた桜の木は満開に咲いている。あんな戦争など無かったかのように、 そこには日常が溢れている。 「おーい、遠坂」 凛に声をかける士郎。その声にハッとする凛。 「どうしたんだよさっきから考え込んでるけど。何か悩み事か?」 そう言って、珍しく持ってきた弁当をつつく士郎。 「ううん、なんでもない」 「そうか?なんか変だったぞ?ホントに大丈夫か?」 心配そうに声をかけてくる彼を尻目に、 「ええ、大丈夫よ。ちょっとあの事について考えてただけ」 そう言うと、 「………そっか」 と返し、黙り込む士郎。 ◇ そう、そんな中でも、あの戦争を思い出していた。聖杯戦争―――持ち主の望みを何でも叶える聖杯を巡る争いを、凛は隣にいる士郎と共に生き残った。 そして、この平和な日常に戻ってきた。結局得たものは聖杯ではなく、この日常と、戦争において深まった士郎との絆である。 あの戦争の中、凛は士郎と深く絆を結んだ。その絆は今も絶えることなく続き、凛は士郎に一から魔術を教えている。 士郎曰く、あのような事があっても早く一人前の魔術師になりたいそうだ。だが、それだけではなさそうだが。 けれど、失われたものもある。 この戦争によって帰らない命となった、ここの教諭たる葛木宗一郎、己の兄弟子たる言峰綺礼、その身体が聖杯であった イリヤスフィール・フォン・アインツベルン――― その失われた命が、確かに聖杯戦争はあったのだという事実を突きつける。 そして何より、この戦争によって、己はサーヴァントたるアーチャーを、そして士郎はセイバーを失った。 サーヴァントは英霊である。決して死なない、聖杯によって呼びだされた存在であり、失った、というのは他人から見れば 語弊があるのかもしれない。けれど自分たちにとっては、サーヴァントとマスターという関係以上の絆を結んでいた。 これだけは、何人たりとも覆せない事実である。 正直、辛く感じることはある。あの時、こうしておけばよかった、と後悔の念に苛まされる時もある。 だが、その事実を受け入れた上で、生きていくしかない。後悔して歩みを止めるのは所詮逃げでしかない。 どんなに辛かろうと、自分たちは生きている。後悔するくらいなら、前に進んでその分幸せにならなくては意味がない。 それに――― ―――士郎があんな風になるのだけは、止めなきゃいけないからね。 そう、あの日、未来において衛宮士郎がたどる可能性から任された責任。 衛宮士郎がこの先英雄となり、聖杯の力によって守護者となり、そして人間の汚い面に絶望して、ああいう捻くれ者にならないように する。他人を救う際に、自分も救う。それこそが本当の幸せ、ということを教えるのだ。 それを果たすまで、何年かかっても構わない。ひょっとしたら天寿を全うするまでかかるのかもしれない。 けれど、彼から離れるつもりはない。 彼はもう、自分のものだ。ほかの女にみすみすくれてやるつもりなんてない。いい男になる可能性、いいや確実性がある彼を 手放すなんてとんでもない。 この想いは、四年前からずっと抱き続けていたもの。 跳べないとわかっているのに、走り高飛びをやめない彼に抱き続けてきたもの。 己とは正反対の、純粋にひとつの物事に対して打ち込む純粋な彼に抱き続けてきたもの。 たとえ己の妹が、自分よりも彼の傍にいた年月が長くとも、これだけは譲れない。 ◇ そしてしばらく今日の予定や献立など色々話していて、昼休み終了五分前のチャイムが鳴った。 「昼休みももう終わりか」 そう言って、士郎は立ち上がる。そして手を凛に差し伸べる。それに掴まり、立ち上がる凛。 ただ、いつもより目線が高くなっている気がして、 「ねえ士郎。貴方、背が伸びてない?」 そう彼に話しかける。 「そうか?そういやそうだな。最近一成と話すときも同じ目線になってるし」 ま、俺の未来の姿はアーチャーだってわかってるから、あんまり驚いてないけどな、と言ってくる士郎。 そう、彼の未来の姿たるアーチャーは、190近い上背だった。 そのことを考えると、彼の背が高くなるのは当然なのだが――― 「もう一成よりも高いわよ。172センチ位はあるんじゃない?」 そう不機嫌そうに話す凛。そう、凛にとっては面白くない。だが、それに気づかず、 「どうしたんだよ遠坂?何か不機嫌だけど?」 そう士郎が尋ねると、 「なんでもないわよ」 そう突き放すように言う凛。 「なんでもないことないだろ?なんかやったか俺?」 「別に何もやってないわよ。強いて言うなら嫌なだけ」 「何が?」 「………笑わない?」 「ああ」 そう目を見て言ってくる士郎に、意を決して、 「………ないで」 と小声で言う。 「は?」 その内容が聞き取れず、聞き返す士郎。 「これ以上背が高くならないでって言ったの!!」 と大声で返す凛。 「〜〜っ、なんでさ。別に俺が背が高くなっても構わないだろ?」 耳を押さえつつ聞き返すと、 「アンタがこれ以上高くなると色々困んのよ!!」 「ハァ?なんで」 「だって………」 そこで立ち止まり、ニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべる凛。 ―――まずい、あの笑いは何かよくないことの前兆だ。 そのあくまじみた笑いにイヤな予感に身震いしつつ、 「お〜い、遠坂?」 と尋ねる士郎。 「わからないの?衛宮くん」 「わかってないから聞いてるんだろ?」 そう言うと、より一層そのあくまじみた笑いを深め、 「んじゃ教えてあげる。背が伸びてほしくない理由はね―――」 言いながら彼に抱きつき、 背伸びをして 唇を 重ねてきた。 そして、そのまま離れない凛。 「!!」 士郎は固まった。それはもう、石像のように。そして何とかこの状況について考え出す。だが、それに追い討ちをかけるように、 「これが答え。貴方がこれから先、もっと背が高くなると、もっとキスするのが辛くなるのよ」 だから、と耳元で囁いてきた。その答えを聞いて士郎は、 赤くなった顔がより赤くなり 全ての思考がフリーズした。 「けどやっぱり恥ずかしいわね。こういうことするのって。でもこれは、って士郎?お〜い、士郎?」 凛が何か話しかけてくる。けれど、何も聞こえない。 「衛宮くん?お〜い」 凛が何か目の前で振ってる。けれど、それが何かわからない。 「ちょっと、士郎!!」 凛が身体を揺さぶる。けれどそれを他人事のように受け止める自分がいる。 そしてそう感じたのを最期に、士郎は意識を失った。 ◇ 「ちょっ……士郎!?大丈夫?」 思わず身体を受け止める凛。 「ちょっとからかいすぎたな?」 少し反省する凛。だが、それでもからかうのは止めないのだが。 そう、これだから士郎をからかうのはやめられない。 いつも予想通りの反応を示してくれる。まあ、今日のような例外もあるが。 ―――でも、これはアンタが悪いのよ。士郎。 凛は士郎を抱きかかえる。 戦争が終わって以来、士郎は魔術を一から習っている。 その姿勢は熱心であり、それは美徳でもあるのだが、凛も士郎も高校三年生。 そして、戦争中に互いに肌を重ねあった仲である。 そんな仲であるにも拘わらず、士郎とはあの日以来、肌を重ねあっていない。 そう、単純に言えば凛は欲求不満だったのだ。求められればいつでも彼に触れられてもいいように覚悟しているのに、 この鈍感な男はそれに気づきもしなかったのだ。 だからこその悪戯。そしてそれはこういう風に効果覿面だったわけである。 「でも、どうしよう。授業始まるけど」 そう独りごちる凛。もう昼休みは終わりだ。そろそろ次の授業が始まる。 行かなければちょっとした騒ぎになるだろう。 そう、一応凛はこの学校では非の打ち所のない優等生として通っている。 その彼女が授業をずる休みした、となったら、教室が騒然となるだろう。 それを焚き付けそうな友人たちを思う。そう、己の親友にして天敵たる美綴綾子などは これを暫くネタにするに違いない。蒔寺楓もそうだ。 「ま、いっか」 けれど、次の授業をボイコットすることにした。何故なら――― 「士郎と一緒にこうしてるほうが楽しいもの」 そう、この一時に比べれば、授業など二の次である。そう考えて凛は地面に座り、士郎を膝枕する。 ―――ふふ、目が覚めたときが楽しみね。 そう、起きた時、彼はまた予想通りの反応をしてくれるだろう。その様子を思い浮かべつつ、士郎の髪の毛を撫でる。 「覚悟しなさい士郎。嫌だって言っても、ずっと別れてなんてやらないんだから」 そう言って、普段士郎に見せるあくまじみた笑いではなく、18の少女が浮かべる年相応の微笑を気絶している士郎に向ける。 「けど、ホントにいい天気ね」 ふわぁ、と欠伸を一度して、 「なんだか眠くなってきちゃった」 と独りごちる凛。そして少し考えて、 「……決めた。このまま寝ちゃおう」 と言って、瞼を閉じる。 このままだと足が痺れるだろうな、と少し考えたが、眠気には勝てない。 それに、起きたらまたちょっとした一波乱があるだろう。 けれど、それでいい。それが、楽しいということなのだから。 それこそが、士郎に欠けているものなのだから。 それを教える役目は、自分だけのもの。 決して誰にも譲らない。 そして凛は、士郎と共に、そのまま眠りの世界へ入っていった――― 風俗 デリヘル SMクラブ |